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スタートアップのM&A事例【最新22件】ベンチャー売却・大企業買収額なども紹介

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スタートアップ企業のM&Aは、大企業や新興上場企業が買い手となる場合はもちろん、スタートアップ企業自身が買い手となる場合も含めて、事業拡大や新規市場参入、技術獲得の手段として近年活発になっています。特に、成長フェーズにあるスタートアップにとって、大手企業や投資ファンドによる買収を経て資本力や信用力等を強化することは事業成長の加速に直結しうる重要な戦略です。

また、スタートアップが他のスタートアップや古くからある中小企業を買収することで、成長を加速するという選択肢も重要性が増しています。

本記事では、2024年以降に行われた注目のスタートアップM&A事例30件(スタートアップが売り手となる案件22件、スタートアップが買い手となる案件8件)を詳しく解説します。
「自社のM&A戦略を検討している」「最新のM&Aトレンドを知りたい」 という方は、ぜひ最後までご覧ください。

スタートアップが売り手となるM&A事例22件

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近年、スタートアップ企業のM&Aはますます活発化しており、特に2024年以降には注目すべき事例が多数報告されています。

  1. みずほ銀行による、UPSIDERの買収(2025年7月)
  2. サワイグループホールディングスによる、FrontActの買収(2025年6月)
  3. アクセンチュアによる、ゆめみの買収(2025年5月)
  4. デジタルガレージによる、ポケットチェンジのグループ化(2025年2月)
  5. AnyMind Groupによる、AnyReachの買収(2025年2月)
  6. サイバーセキュリティクラウドによる、DataSignの買収(2025年2月)
  7. アルバイトタイムスによる、WHOMの買収(2025年2月)
  8. ELEMENTSによる、ポラリファイの買収(2025年1月)
  9. メドレーによる、アクシスルートホールディングスの買収(2025年1月)
  10. エフコードによる、デイトラの買収(2025年1月)
  11. アイビスによる、テクノスピーチの買収(2024年12月)
  12. テンダによる、Almondoの買収(2024年12月)
  13. ソニーフィナンシャルグループによる、justInCaseの買収(2024年11月)
  14. タナベコンサルティンググループによる、Surpassの買収(2024年8月)
  15. 芙蓉総合リースによる、CBホールディングスの買収(2024年5月)
  16. インフォマートによる、タノムの買収(2024年3月)
  17. シーエーシーによる、スカイプロデュースジャパンの買収(2024年2月)
  18. コアコンセプト・テクノロジーによる、Pros Consの買収(2024年2月)
  19. 飛島建設による、アクシスウェアの買収(2024年2月)
  20. サンロフトによる、S’PLANTの子会社化(2024年2月)
  21. ブルックマンテクノロジによる、凸版印刷(TOPPANホールディングス)への株式譲渡(2024年2月)
  22. FacePeerによる、マイナビへの株式譲渡(2024年2月)
2024年以降に行われたスタートアップが売り手となるM&A事例を22件紹介し、それぞれの背景や意義について詳しく解説していきます。

 

1. みずほ銀行による、UPSIDERの買収(2025年8月)

みずほ銀行が、急成長するFinTechスタートアップであるUPSIDERホールディングスの株式約70%を約460億円で取得し、UPSIDERを連結子会社化する戦略的M&Aを発表した。取得手続きは2025年9月に完了する予定である。


UPSIDERは、AIを活用した独自の与信モデルを提供し、小規模法人やスタートアップを中心に支持を広げてきた。主力サービスである法人カード「UPSIDER」や「支払い.com」は、累計で8万社以上に導入されており、成長性と活用範囲の広さが評価されている。


今回のM&Aの目的は、みずほの広範な金融ネットワークとUPSIDERのAI与信技術を融合させることで、中小企業やスタートアップに対し、高速かつ柔軟な金融サービスやソリューションを提供することにある。合弁で運営中のスタートアップ支援ファンドも成功したことで、両者の協業基盤は整っている。


今後は、AI与信と銀行の与信ノウハウを融合した新たな審査モデルの構築、両社サービスのシームレスな連携、さらには多様なパートナーとの協業を通じた、新しい金融エコシステムの創出が期待されている。

2. サワイグループホールディングスによる、FrontActの買収(2025年6月)

サワイグループがデジタルヘルス事業を強化するうえでの重要な一手とされるのが、2025年6月のFrontAct全株式取得完了である。


FrontActは、生体信号処理や疾患予測アルゴリズムを活用したソリューションに強みを持ち、医療現場の業務効率化や予防医療の推進に寄与している。


ジェネリック医薬品事業に次ぐ新たな成長分野を確立する狙いがあり、この買収はデジタル技術の活用を加速させるものと位置づけられている。


今後は、製薬・医療機器領域とのシナジーを創出し、国内外市場でのデジタルヘルス展開が進むとみられる。

3. アクセンチュアによる、ゆめみの買収(2025年5月)

アクセンチュアが、デジタルサービス開発における競争力を強化するための重要な動きとされるのが、2025年5月のゆめみの買収である。


ゆめみは、モバイルアプリやWebサービスの企画・開発において卓越した実績を持ち、デザインエンジニアリングを軸にスピーディかつ高品質なプロダクト提供を行っている。


顧客接点としてのデジタルサービス需要が高まる中、この買収はアクセンチュアの生成AI活用やUX改善戦略と大きなシナジーを生むと考えられている。


買収により、ゆめみ約400名のプロフェッショナルを迎え、企画から運用まで一気通貫で提供できる体制の強化が進むと見込まれる。

4. デジタルガレージによる、ポケットチェンジのグループ化(2025年2月)

デジタルガレージが決済・地域通貨領域での事業拡大を目的に実行したのが、2025年2月のポケットチェンジの持分法適用会社化である。


ポケットチェンジは、余った外貨や小銭を電子マネーや地域通貨に交換する端末サービスを展開し、地域決済プラットフォーム「ハチペイ」のプロジェクトにも参画してきた。


キャッシュレス化や地域DXの流れが加速する中、このM&Aはデジタルガレージの決済基盤と地域密着型サービスの融合を可能にするとされる。


将来的には、観光・自治体連携による地域経済活性化モデルを全国展開し、スマートシティ構想にも寄与すると見込まれている。

5. AnyMind Groupによる、AnyReachの買収(2025年2月)

AnyMindがEC・マーケティング領域の提供力強化を目的に実施したのが、2025年2月のAnyReach全株式取得である。


AnyReachは住所不要のeギフト機能「AnyGift」を提供し、導入企業数は700社を超えている。


EC市場の競争激化に対応するため、この買収によりAnyMindはBPaaSや海外拠点を活用した新たな販促モデルの提供が可能になるとされる。


今後は、顧客データ分析やCRM施策と組み合わせたギフトソリューションの国内外展開が進むと見込まれる。

6. サイバーセキュリティクラウドによる、DataSignの買収(2025年2月)

サイバーセキュリティクラウド(CSC)が「セキュリティ×プライバシー」の統合価値を実現するために実施したのが、2025年2月のDataSignの完全子会社化である。


DataSignはCMP「webtru」などのデータプライバシー製品を提供し、1,000サイト以上に導入されている。
データ保護規制の強化に伴い、この買収はCSCのWebセキュリティ技術とDataSignの同意管理機能を組み合わせ、包括的なセキュリティ・コンプライアンス対応を可能にするとされる。


今後は、グローバル市場への展開やデータ利活用サービスの開発を通じて、企業のデジタル信頼性向上が期待されている。

7. アルバイトタイムスによる、WHOMの買収(2025年2月)

アルバイトタイムスが採用支援領域の事業拡大を目的に実施したのが、2025年2月のWHOM子会社化である。
WHOMはフリーランスや副業のプロリクルーターを活用するRPOプラットフォームを運営し、採用戦略立案から実務までをカバーしている。


求人市場が多様化し採用難が続く中、この買収によりアルバイトタイムスは求人メディアとRPOを統合し、顧客の採用課題を包括的に解決できる体制を構築できるとみられる。


今後は地方や中小企業向けの採用支援サービスの強化が進むと予測されている。

8. ELEMENTSによる、ポラリファイの買収(2025年1月)

ELEMENTSが本人確認(eKYC)分野での事業基盤を強化する目的で実行したのが、2025年1月のポラリファイ子会社化である。


ポラリファイはSMBCグループ発のeKYC事業者で、金融・通信など厳格な規制業界で豊富な導入実績を持つ。


オンライン取引や非対面サービスが拡大する中、この買収によりELEMENTSは自社の「LIQUID eKYC」とポラリファイの技術を統合し、業界最大級の顧客基盤を有する認証サービスを構築できるとされる。

今後はICチップ読み取りや公的個人認証との連携強化が進み、国際基準に対応した本人確認サービスの提供が進展するとみられる。

9. メドレーによる、アクシスルートホールディングスの買収(2025年1月)

メドレーが医療DX事業の拡張を目的に行ったのが、2025年1月のアクシスルートホールディングスの完全子会社化である。


同社はクラウド電子薬歴「Medixs」を展開し、薬局業務効率化や在宅医療支援に強みを持つ。


医療現場のデジタル化が進む中、この買収はメドレーの既存サービス「CLINICS」や「Pharms」との相互補完を実現するとされる。


今後は病院・薬局・患者をつなぐプラットフォーム構築が進み、医療アクセス改善と業務効率化が一層促進されるとみられる。

10. エフコードによる、デイトラの買収(2025年1月)

エフコードが教育事業領域の拡大と社会課題解決を図る一手として実施したのが、2025年1月のデイトラ買収である。


デイトラはデジタルスキル習得に特化したオンラインスクールを運営し、SNSを活用した集客と実践的カリキュラムで3万人以上の受講生を獲得してきた。


デジタル人材不足が深刻化する中、この買収はエフコードの既存事業とのシナジーを生み出し、教育から就業までの一貫支援体制を強化する狙いがあるとされる。


今後はコース内容の拡充や企業向け研修サービスの開発が進み、人材育成市場での存在感が高まるとみられる。

11. アイビスによる、テクノスピーチの買収(2024年12月)

アイビスがコンテンツ創作領域でのAI活用を強化する目的で実施したのが、2024年12月のテクノスピーチ子会社化である。

テクノスピーチは歌声・音声合成分野で先端技術を持ち、AI歌声ソフト「VoiSona」を展開している。

「ibisPaint」の巨大ユーザー基盤とVoiSonaの音声生成技術を掛け合わせることで、新たなクリエイティブ市場の開拓が可能になるとされる。

今後はグローバル展開を視野に、クリエイター向け統合プラットフォームの構築が進むとみられる。

12. テンダによる、Almondoの買収(2024年12月)

テンダが生成AIと業務変革ソリューションの融合を図るために行ったのが、2024年12月のAlmondo子会社化(51%取得)である。

AlmondoはAIナレッジ基盤や特化型モデル開発を手掛ける東大松尾研発スタートアップで、大手企業への導入実績を持つ。

テンダの顧客基盤や既存プロダクトと組み合わせることで、より実務に適したAI活用ソリューションの提供が可能になるとされる。
今後は新機能開発や新規事業創出の加速が予測されている。

13. ソニーフィナンシャルグループによる、justInCaseの買収(2024年11月)

ソニーフィナンシャルグループ(SFGI)が少額短期保険分野への本格参入を目的に行ったのが、2024年11月のjustInCase全株式取得である。

justInCaseはデジタル保険の設計・提供を行い、柔軟でニッチな保険商品開発に強みを持つ。

SFGIとの連携により、既存の金融サービスとのクロスセルや顧客体験の向上が見込まれている。

今後は新たな保険商品・サービスの開発を通じ、金融エコシステムの高度化が進むとみられる。

14. タナベコンサルティンググループによる、Surpassの買収(2024年8月)

タナベコンサルティンググループ(TCG)がDE&Iや女性活躍推進分野のコンサル機能を強化するために行ったのが、2024年8月のSurpass過半数取得・グループ化である。

Surpassは女性人材を中心に営業・マーケティング・DX支援を提供し、企業の組織力強化に寄与している。

TCGの総合コンサル力とSurpassの人材ネットワークを組み合わせることで、多様性を競争力に変える支援が可能になるとされる。

今後は組織開発と営業支援の一体化が進み、企業の持続的成長に寄与するとみられる。

15. 芙蓉総合リースによる、CBホールディングスの買収(2024年5月)

芙蓉総合リースが医療・介護・福祉分野での事業領域拡大を目的に実施したのが、2024年5月のCBホールディングス買収である。

CBホールディングスは、医療・介護・福祉業界に特化したM&A仲介や開業支援、経営コンサルティングを手掛けており、専門性の高いネットワークを有している。

この買収により、芙蓉総合リースはファイナンス事業と経営支援機能を組み合わせ、医療・介護事業者への包括的なサポートを提供できる体制を整えることになるとされる。

業界構造変化への対応力が高まり、顧客の事業承継や経営改善支援が一層強化されるとみられる。

16. インフォマートによる、タノムの買収(2024年3月)

インフォマートが外食業界向けの受発注DXを加速する目的で行ったのが、2024年3月のタノム子会社化である。

タノムは卸—個人飲食店間の受発注・販促をデジタル化するクラウドサービス「TANOMU」を提供している。

中小飲食店のデジタル化が遅れる中、インフォマートの顧客網とタノムのサービスを組み合わせることで、市場浸透が加速するとされる。

今後は外食産業全体の業務効率化と取引構造改革が進み、飲食業界の競争力向上に寄与するとみられる。

17. シーエーシーによる、スカイプロデュースジャパンの買収(2024年2月)

シーエーシーがデジタルマーケティングや広告業界における競争力を強化するための重要な一手とされるのが、2024年2月のスカイプロデュースジャパンの買収である。

スカイプロデュースジャパンは、映像制作やコンテンツマーケティング分野で高く評価されており、技術力とクリエイティブな発想が特徴である。

映像コンテンツ需要が拡大する中、その専門性はシーエーシーの事業に新たな価値を加えるとみられている。

買収により、同社の技術やノウハウを活用したサービス強化が進み、事業拡大と市場での存在感向上が期待されている。

18. コアコンセプト・テクノロジーによる、Pros Consの買収(2024年2月)

コアコンセプト・テクノロジーがデジタルマーケティング分野でのサービス強化を目的に実施したのが、2024年2月のPros Consの買収である。

Pros Consは、データ分析を基にしたマーケティング戦略を提供し、特に中小企業向けソリューションに強みを持つ。

この買収により、同社は製品ラインを拡充し、より幅広い顧客ニーズへの対応が可能になるとされる。

両社の技術や知見の融合によって効率的なマーケティング施策が実現し、顧客への価値提供向上が期待されている。

19. 飛島建設による、アクシスウェアの買収(2024年2月)

飛島建設が建設業務のデジタル化を加速させる戦略的施策として実施したのが、2024年2月のアクシスウェアの買収である。

アクシスウェアは建設業界向けのソフトウェアソリューションを提供し、特にプロジェクト管理やデータ分析に強みを持つ。

買収により、飛島建設は業務プロセスの効率化と高度なプロジェクト管理を実現できる体制を強化するとみられる。

この動きは、業界全体の競争力強化にも資する戦略的統合として注目されている。

20. サンロフトによる、S’PLANTの子会社化(2024年2月)

サンロフトがデジタルマーケティング事業の競争力を高めるために実施したのが、2024年2月のS’PLANTの子会社化である。

S’PLANTはデジタルコンテンツ制作やマーケティングオートメーションに強みを持ち、高い技術力で評価されている。

この子会社化により、サンロフトは効果的なマーケティングソリューション提供と顧客基盤の拡大が可能になるとされる。

デジタル領域での統合が進む中、戦略的シナジーによる収益拡大が期待されている。

21. ブルックマンテクノロジによる、凸版印刷への株式譲渡(2024年2月)

ブルックマンテクノロジが保有株式を凸版印刷に譲渡したのは、2024年2月のことであり、両社の技術と市場ネットワークを融合させる狙いによるものである。

ブルックマンテクノロジはデジタル印刷や自動化技術に特化し、環境配慮型ソリューションを提供してきた。

凸版印刷はこの技術を取り入れることで製品ラインを強化し、新たなビジネスモデル構築を進めることが可能になるとされる。

この提携は、印刷業界の競争力向上と持続可能なビジネスモデル確立に資する動きとして注目されている。

22. FacePeerによる、マイナビへの株式譲渡(2024年2月)

FacePeerがマイナビに株式を譲渡したのは、2024年2月であり、両社の技術とネットワークを組み合わせた人材サービス強化を目的としている。

FacePeerはリモートワークやフリーランス人材マッチングに強みを持ち、独自のAI技術を有している。

マイナビはこの技術を取り入れることで、多様な人材サービス展開と市場適応力向上を図れるとされる。

スタートアップと大企業の連携事例として、迅速な市場対応と競争力強化が期待されている。

スタートアップが買い手となるのM&A事例8件

以下が8件を表形式で整理した概要です。

No.

買い手企業

対象企業/事業

実施時期

概要・買収目的

主な効果・狙い

1

CRISP

トーキョーアジフライ(事業譲受)

2025年7月

外食業界の多様性創出を目的に、アジフライ専門店事業を初のM&Aで譲受

都心オフィス街を中心に4年間で30店舗規模へ拡大し、定食カテゴリーで新たな顧客体験を創出

2

MOON-X

Vieon

2025年4月

ブランド成長支援事業の拡大とデジタルマーケティング即戦力の獲得

海外市場進出やクロスプロモーション強化によるブランドポートフォリオ価値向上

3

リンクタイズホールディングス

TPO

2025年4月

ライフスタイル事業領域の拡充とコミュニティ型ビジネス強化

高付加価値空間の展開拡大とブランドコラボによる新規顧客層開拓

4

SmartHR

CloudBrains

2025年4月

人事労務領域の機能強化と人的資本経営支援の高度化

労務管理機能と分析機能の統合によるデータドリブン人事戦略の推進

5

アスエネ

Carbon EX

2025年3月

脱炭素経営支援サービスの包括化と国際基準対応力強化

Scope1〜3排出量管理とサプライチェーン全体での削減支援の加速

6

FUNDiT

インフルエンサーフォース事業(on the bakeryより譲受)

2024年11月

インフルエンサーマーケティング領域のポートフォリオ拡張

CRM・BPaaS機能を活用した体制強化と市場ポジション拡大

7

FUNDiT

MOTEHADA事業(ピアラより譲受)

2024年5月

美容情報メディア事業の取得によるWeb運営基盤拡充

オペレーション改善とSEO強化によるメディア価値向上

8

ACROVE

アイティエスジャパン

2024年1月31日

ECロールアップ戦略の推進とカーパーツ領域の事業基盤取得

データ基盤と物流力を活かした精度向上と海外展開加速

以下、それぞれの事例をより詳しく見ていきます。

1. CRISPによる、トーキョーアジフライの事業譲受(2025年7月)

CRISPが外食業界における新たな多様性創出を目的として実施したのが、2025年7月25日に締結された「トーキョーアジフライ」事業の譲受である。譲受は2025年9月1日に効力を発した。

「トーキョーアジフライ」は、千代田区で2022年に開業したアジフライ専門店で、長崎県松浦漁港直送のアジと羽釜炊きご飯を組み合わせた「手仕込みアジフライ定食」が看板メニューとして高い評価を受けている。

2014年創業のCRISPは、「日本の外食を、ひっくり返せ。」というパーパスのもと、カスタムサラダ専門店「クリスプサラダワークス」を中心にDXを活用した収益性の高いブランド展開をしてきた。今回の譲受は初のM&Aであり、クリスプメソッドを用いた外食業態の革新的展開の一環とされている。

譲受後は、ブランドの個性と品質を継承しつつ、都心オフィス街を中心に4年間で30店舗規模への拡大を見込んでおり、定食カテゴリーにおける新たな顧客体験創出と業界変革への寄与が期待されている。

2. MOON-Xによる、Vieonの買収(2025年4月)

MOON-Xがブランド成長支援事業の拡大を狙って実施したのが、2025年4月のVieonの買収である。

VieonはD2CブランドやEC事業者向けにマーケティング戦略立案から実行支援までを提供し、特にデジタル広告とデータ解析を融合した成長施策に強みを持つ。

この買収により、MOON-Xは既存の共創型M&Aモデルにデジタルマーケティングの即戦力を加え、買収ブランドの成長スピードを加速できるとされる。

将来的には、海外市場進出や複数ブランド間のクロスプロモーション戦略が強化され、ブランドポートフォリオ全体の価値向上が期待されている。

3. リンクタイズホールディングスによる、TPOの買収(2025年4月)

リンクタイズホールディングスがライフスタイル事業領域の拡充を目的として実施したのが、2025年4月のTPOの買収である。

TPOは会員制ワーキングスペースやイベントスペースの企画・運営を行い、都市生活者向けの高付加価値空間提供に強みを持つ。

今回の買収により、リンクタイズホールディングスは既存のメディア・コンテンツ事業との連携を強化し、コミュニティ型ビジネスの収益基盤を広げる狙いがあるとされる。

将来的には、ライフスタイル関連ブランドとのコラボレーションや新規会員層の開拓が加速し、都市型プレミアム空間事業の展開が進むことが期待されている。

4. SmartHRによる、CloudBrainsの買収(2025年4月)

SmartHRが人事労務領域での機能強化を図る重要な動きとして実施したのが、2025年4月のCloudBrainsの買収である。

CloudBrainsは従業員データの分析・活用を支援するソフトウェアを提供し、人事施策の効果測定やタレントマネジメントに強みを持つ。

この買収により、SmartHRは既存の労務管理機能とCloudBrainsの分析機能を統合し、企業の人的資本経営支援を一層高度化できるとされる。

今後は、データドリブンな人事戦略の推進や、法改正・労務トレンドへの迅速な対応力向上が期待されている。

5. アスエネによる、Carbon EXの買収(2025年3月)

アスエネが脱炭素経営支援サービスの提供力強化を目的に行ったのが、2025年3月のCarbon EXの買収である。

Carbon EXは、企業のCO₂排出量を見える化・削減・報告するクラウドプラットフォームを運営し、国際的なカーボン会計基準への準拠にも対応している。

アスエネはこの買収により、Scope1〜3の包括的な排出量管理と、顧客ごとの脱炭素ロードマップ策定支援を強化できるとされる。

今後は、国内外の環境規制対応やサプライチェーン全体での排出削減ソリューション提供が加速すると見込まれる。

6. FUNDiTによる、on the bakeryからのインフルエンサーフォース事業譲受(2024年11月)

FUNDiTがインフルエンサーマーケティング領域でのポートフォリオを拡張する重要な一手として実施したのが、2024年10月末時点のon the bakeryからの「インフルエンサーフォース」事業譲受である。

インフルエンサーフォースは、CRMを活用したインフルエンサー管理ツールで、エンタープライズ企業向けのBPaaS機能も備える。
on the bakeryは事業を譲渡することで自社リソースを主力事業へ集中させ、選択と集中の戦略を推進したとされる。

この譲受により、FUNDiTはASPやIP関連ビジネスと連携し、市場におけるインフルエンサーマーケティング領域での体制強化が進むとみられている。

7. FUNDiTによる、ピアラからのMOTEHADA事業買収(2024年5月)

FUNDiTがデジタル領域でのメディア事業強化を狙って実施したのが、2024年5月15日の、ピアラからの美容情報サイト「MOTEHADA」事業の譲受である。

MOTEHADAは脱毛サロンやエステ、アートメイクなどの美容情報を扱うウェブメディアで、SEOを活かした情報発信に定評があった。

SEOアルゴリズム変更に伴う運営上のコスト増を背景に、ピアラは他事業へ経営資源を集中させる判断を行ったとされる。
買収により、FUNDiTはメディア事業の取得を通じてWeb運営基盤の拡充を図り、オペレーション改善・価値向上を実現すると見られている。

8. ACROVEによる、アイティエスジャパンの買収(2024年1月31日)

ACROVEがECロールアップ戦略を推進する中で実施したのが、2024年1月31日の、オリジナルカーパーツの開発・製造・販売を行うアイティエスジャパンの完全子会社化である。

アイティエスジャパンは、楽天市場で月間14,000以上の商品を発送する高いオペレーション力と商品開発力を持つEC優良店舗である。
買収により、ACROVEはECプラットフォームのノウハウとカーパーツ領域の実運営力の融合を図り、海外展開の基盤強化につなげたとされる。

これにより、ACROVEは自社のデータ基盤と物流力を活かしたECグループ運営の精度向上とグローバル展開の加速が期待されている。

スタートアップ(ベンチャー企業)のM&Aの件数はどれくらいか?

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近年、スタートアップ企業のM&Aの潜在需要は急速に増加していますが、顕在化している案件はまだまだ少なく、実現した件数は潜在需要に比べると緩やかに増加しています。

STARTUP DBやSPEEDAのデータを参考にすると、2024年には約200件以上のスタートアップM&Aが実行され、2025年以降も、増加傾向となる見込みです。特にデジタル化が進む業界や新興市場において顕著であり、企業が競争力を維持するためにスタートアップを取り込む動きが加速しています。

また、M&Aの件数が増える背景には、スタートアップ企業が持つ革新的な技術やビジネスモデルへの関心が高まっていることがあります。大企業はスタートアップを買収することで、自社の技術力を強化し、新たな市場に迅速に参入することが可能ですし、スタートアップは大企業の経営資源を活用して成長を加速することが可能です。スタートアップは、別のスタートアップや中小企業を買収することで、成長を加速することが可能です。

スタートアップのM&A件数は今後も増加し続けると予想されており、企業にとっては重要な戦略の一環となっています。


スタートアップ(ベンチャー企業)の買収額の相場

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スタートアップやベンチャー企業のM&Aにおける買収額は、利益や純資産だけでの評価が困難な事例が多いことから、業界や企業の成長段階、技術の革新性、そして市場の競争状況によって大きく異なります。

一般的に、日本のスタートアップは数億円数百万から数十億円の範囲で買収されることが多く、時々、数百億円規模、稀に数千億円規模です。特に注目される技術やビジネスモデル、市場における競争環境を踏まえて優位なポジション等を持つ企業は、相対的に高く評価される傾向です。


日本の中小規模のM&A市場では、経済産業省等が指摘する通り、大手M&A仲介会社が積極的に買収を繰り返すストロングバイヤーを常連客として、中立と見せかけつつ情報を一手にコントロールすることで買い手寄りの価格誘導をする傾向が顕著と言われています。日本においてはこうした大手M&A仲介会社の資金力と営業力・存在感は絶大です。海外にはこうした利益相反を前提とするM&A仲介会社はほぼ存在感がありません。

こうした日本の中小規模のM&A市場の実情を踏まえると、日本のスタートアップを含めた中小企業の売り手は、買い手よりも情報量が少なく、安く買い叩かれる傾向があります。

特に、事業承継型のM&Aにおいて、長年の歴史と信頼があり黒字の実績も豊富な中小企業が、情報不足なまま大手M&A仲介会社の支援でM&Aが実行されている事例が多いと言われています。

こうして、優良企業が適正な売却価格より安く買収されるような日本市場において、赤字や黒字になったばっかりといったスタートアップを適正価格以上で売却するのは容易ではありません。

日本のスタートアップの買収額は多様な要因によって変動しますが、全体としては市場の活性化とともに、売主がM&A仲介だけではなく売り手の売却価値最大化に専念するFAの起用を検討するなど、M&Aの知識や経験値が増えていくことで、少しずつですが上昇していく傾向が予想されます。今後もM&A市場の動向を注視し、適切な戦略を立てることが重要です。

まとめ

スタートアップのM&Aは、企業の成長戦略においてますます重要な役割を果たしています。2024年以降に行われた29件の注目すべきM&A事例を通じて、スタートアップがどのように大企業や投資ファンドに取り込まれているのか、その動向を見てきました。

今後もスタートアップのM&A市場は活発に推移することが予想され、企業経営者や投資家にとっては、最新のトレンドを把握し、適切な戦略を立てることが求められます。M&Aを検討している方々にとって、本記事が有益な情報源となり、成功に繋がることを願っています。