中小企業・スタートアップがM&Aを活用するメリットとは?事業承継や成長戦略における重要なポイント
少子高齢化や経営環境の変化により、中小企業の事業承継や成長戦略の実現はますます困難になっています。
こうした中、M&A(合併・買収)は事業承継問題の解決だけでなく、新たな成長機会を生み出す重要な手段として注目されています。
本記事では、中小企業やスタートアップがM&Aをどのように活用できるのか、そのメリットや成功のポイント、直面しやすい課題とその対策について詳しく解説します。
中小企業・スタートアップにおけるM&Aの現状
近年、日本の中小企業・スタートアップは少子高齢化や経済のグローバル化、技術革新の進展など、さまざまな外的要因に直面しています。これにより、経営環境は厳しさを増し、事業承継や成長戦略の実現が難しくなっているのです。
特に、後継者不足が深刻な問題となっており、多くの企業が事業の継続や更なる成長を困難としています。また、スタートアップもIPOだけではなくM&Aも検討することで、更なる事業成長の手段をフラットに比較することが望ましい、という考えが広がりつつあります。このような状況下で、M&A(合併・買収)は中小企業やスタートアップにとって重要な選択肢として浮上しています。
最近では中小企業やスタートアップのM&Aに対する関心が高まり、専門の仲介業者やコンサルタントも増加しています。これにより、M&Aのプロセスが円滑に進むようになり、企業が抱える課題を解決するためのサポートが充実しているのです。
中小企業やスタートアップがM&Aを活用することで、経営の安定化や成長を図ることができる時代が到来しているといえるでしょう。
中小企業・スタートアップがM&Aを活用するメリット
中小企業・スタートアップがM&Aを活用するメリットは多岐にわたります。
(中小企業の場合)
- 事業承継問題の解決
(スタートアップの場合)
- 事業・組織の成長段階・特性に応じた経営陣・株主の入れ替え
(中小企業・スタートアップ共通)
- 経営資源の獲得
- 規模の経済性の実現
- 資金調達の円滑化
以下からは各メリットについて解説しています。
事業承継問題の解決
後継者不足や経営者の高齢化が進む中、M&Aはこの問題を解決する有効な手段として注目されています。M&Aを通じて、既存の企業を買収することで、経営資源やノウハウを引き継ぐことが可能になります。
これにより、事業の継続性が確保され、地域経済への貢献も期待できるのです。
事業・組織の成長段階・特性に応じた経営陣・株主の入れ替え
スタートアップ起業家・創業者はゼロイチが得意である傾向がある一方、すでに軌道に乗り始めた事業を更に大きくする、というところが得意ではなかったり、好きではなかったりすることがあります。そうした場合、その成長段階・起業家や向き合う事業の特性に合わせて、最適な経営メンバー・最適な資本構成(株主)で経営することが望ましいです。M&Aがそうした課題の解決策の一つになる可能性があります。
経営資源の獲得
特に、人的資源や技術、ノウハウといった無形の資産は、企業の競争力を高める上で非常に重要です。M&Aを通じて、他社の優秀な人材を取り込むことで、組織のスキルや知識を強化し、業務の効率化や新たなビジネスチャンスの創出につなげることができます。
また、技術や製品ラインの統合により、既存の製品やサービスの質を向上させることも可能です。これにより、顧客満足度の向上や市場での競争力強化が期待でき、結果として売上の増加にも寄与します。
規模の経済性の実現
中小企業・スタートアップがM&Aを活用することで、規模の経済性を実現することが可能です。規模の経済性とは、生産量や販売量が増加することで、単位あたりのコストが低下する現象を指します。
M&Aを通じて企業が統合されると、重複する業務や資源を効率的に整理し、コスト削減を図ることができます。
例えば、製造業においては、設備投資や原材料の仕入れを共同で行うことで、より有利な条件で取引ができるのです。ソフトウェア開発やSaaSなどにおいても、採用や開発力を強化できる可能性があります。また、販売網の統合により、マーケティングコストを分散させることも可能です。これにより、競争力を高め、利益率の向上を実現することが期待されます。
資金調達の円滑化
中小企業・スタートアップがM&Aを活用することで、資本力が強化できると、デット等での資金調達が円滑に進むというメリットがあります。特に、M&Aを通じて資本力・資金力が強化できると、企業の成長を加速させる要因となります。
また、M&Aによって企業の規模が拡大することで、金融機関からの信用力が向上し、融資を受けやすくなるという側面もあります。
事業承継におけるM&Aの活用
M&Aを以下の目的で活用する企業もあります。
- 後継者不在問題の解消
- オーナーの退職金確保
- 従業員の雇用維持
以下からは、具体的な内容を1つずつ解説しています。
後継者不在問題の解消
経営者の高齢化が進む中で、適切な後継者を見つけることが難しくなっています。このような状況において、M&Aを通じて他の企業や投資家が経営権を引き継ぐことで、事業の継続性を確保することが可能です。
さらに、M&Aによって後継者を外部から迎えることができるため、経営者の意向や企業文化を尊重しつつ、新たな視点や経営手法を取り入れることができます。
また、後継者不在の問題を解消することで、経営者自身も安心して引退することができ、退職後の生活を充実させることが可能になります。
オーナーの退職金確保
中小企業において、オーナーの退職金の確保は重要な課題です。特に、事業承継を考える際には、オーナーが退職後に安定した生活を送るための資金が必要不可欠です。
M&Aを活用することで、オーナーは企業の売却によって得られる資金を退職金として確保することが可能になります。
M&Aによる企業売却は、単なる事業の譲渡にとどまらず、オーナーにとっての経済的な安心をもたらします。売却によって得た資金は、オーナーの退職後の生活資金として活用できるだけでなく、必要に応じて投資や他の事業展開に回すことも可能です。
従業員の雇用維持
事業承継の際には、後継者が不在であることが多く、企業の存続が危ぶまれるケースが少なくありません。M&Aによって、他の企業がその事業を引き継ぐことで、従業員の雇用が守られる可能性が高まります。
また、M&Aを行うことで、買収先の企業が持つリソースやノウハウを活用することができ、従業員にとっても新たな成長の機会が得られるのです。これにより、従業員のモチベーションが向上し、企業全体の生産性が向上することが期待されます。
このように、M&Aは単なる企業の合併や買収にとどまらず、従業員の雇用を守り、彼らの成長を促進する重要な手段となるのです。
成長戦略におけるM&Aの活用
売主視点での成長戦略におけるM&Aの活用方法は以下の通りです。
- 資本力の強化
- 競争力の強化
- イノベーションの促進
これにより、持続的な成長を目指す中小企業にとって、M&Aは重要な選択肢となるでしょう。
資本力の強化
中小企業・スタートアップがM&Aを活用する大きなメリットの一つは、資本力が強化できることです。
競争力の強化
中小企業・スタートアップがM&Aを活用することで、競争力を大幅に強化することが可能です。まず、M&Aによって他社の技術やノウハウを取り込むことで、自社の製品やサービスの質を向上させることができます。
特に、特定の分野での専門性を持つ企業を買収することで、競争優位性を確立し、市場でのポジションを強化することが期待されます。
さらに、M&Aを通じて新たな顧客基盤を獲得することも重要なポイントです。既存の顧客に加え、買収先企業の顧客を取り込むことで、売上の増加が見込まれます。これにより、マーケットシェアを拡大し、競争相手に対して優位に立つことができます。
イノベーションの促進
中小企業・スタートアップがM&Aを活用することで、イノベーションを促進する大きな可能性があります。特に、異なる業界や技術を持つ企業との統合は、新たなアイデアや製品の開発を加速させる要因です。
M&Aによって得られる多様な知識や技術は、企業の競争力を高めるだけでなく、市場のニーズに迅速に応えるための柔軟性をもたらします。
さらに、M&Aを通じて新しい人材が化学反応をおこす可能性も、イノベーションの鍵です。異なるバックグラウンドを持つ人材が集まることで、創造的な発想が生まれやすくなり、企業文化の変革にもつながります。
M&A成功のための重要ポイント
売主目線でのM&Aを成功させる重要ポイントは以下の通りです。
- 明確な目的設定
- 売却価値の最大化
- 今後の更なる成長機会
- 買主と目指す世界観やカルチャーへの共感
- 効果的なPMI 統合の実施
中小企業・スタートアップがM&Aを成功させるためには、これらの重要なポイントを押さえる必要があります。
明確な目的設定
中小企業・スタートアップがM&Aを成功させるためには、まず明確な目的を設定することが不可欠です。目的が不明確なまま進めると、期待する成果を得られません。
例えば、事業承継を目的とする場合、後継者の育成や企業文化の継承を重視する必要があります。一方で、新規市場への参入を目指す場合は、ターゲット市場の特性や競合状況を十分に分析し、戦略を練ることが求められます。
目的設定は、M&Aのプロセス全体に影響を与えるため、初期段階での慎重な検討が重要です。
売却価値の最大化
売主にとってのM&Aを成功させるためには、売却価値の最大化が重要です。売却価値最大化のためには、利益相反前提のM&A仲介のように買主から手数料を受け取らずに、売主だけから手数料を受け取るセルサイドFAを起用することが大切です。
売主にとっても買主にとっても、対象企業の適切な企業価値評価が不可欠です。企業価値評価は、買収価格の決定や交渉の基盤となるため、正確かつ客観的な評価が求められます。
評価方法には以下のものがあります。
- 収益還元法
- 市場比較法
- 資産アプローチ
それぞれの企業の特性や業界の状況に応じて最適な方法を選択することが重要です。
また、企業価値評価は単なる数値の算出にとどまらず、企業の将来性や成長ポテンシャルを見極めるための重要なプロセスでもあります。
特に中小企業・スタートアップの場合、財務データだけでなく、経営者のビジョンや経営者、従業員のスキル、顧客基盤など、定量的な要素だけでなく定性的な要素も考慮する必要があります。
今後の更なる成長機会
血縁関係だけで後継者を選んだり、単独で事業を継続するよりも、中小企業・スタートアップにとって、M&Aを通じて企業も従業員もより大きな成長機会に繋がるか、という視点が重要です。
買主と目指す世界観やカルチャーへの共感
売主は株式持分を全部売却する場合であっても、自社の成長を願い、従業員の安定した雇用機会や成長機会を願う場合は、買主との相性は関係ない、というわけにはいきません。リピーターとなる買主を優遇しがちなM&A仲介会社などが「他により良い買主はいません!」という言葉などを鵜呑みにせず、セルサイドFAなどを通じて買主を幅広く検討し、世界観やカルチャーがフィットする買主を見つけ、交渉の過程で見極めていくことが重要です。
効果的なPMI 統合の実施
M&Aの成功には、買収後の統合プロセス、すなわちPMI(Post Merger Integration)が極めて重要です。PMIは、買収した企業と買収された企業の文化や業務プロセスを融合させ、シナジー効果を最大限に引き出すための活動を指します。
効果的なPMIを実施するためには、まず明確な統合計画を策定し、関係者全員にそのビジョンを共有することが不可欠です。
次に、統合チームを編成し、各部門のリーダーを含めた多様なメンバーで構成することが望ましいです。これにより、異なる視点からの意見を取り入れ、円滑なコミュニケーションを図ることができます。
中小企業・スタートアップのM&Aにおける問題点と対策
中小企業のM&Aには以下の問題点があります。
- 資金調達の問題
- 情報の非対称性
- 経営統合の難しさ
- 大手M&A仲介会社が絡む詐欺事件などのリスク
これらの問題に対しては、専門家の助言を受けることや、事前の準備を徹底することで対策を講じることが可能です。
資金調達の問題
資金力が限られている中小企業・スタートアップにとって、M&Aに必要な資金をどのように確保するかは重要なポイントです。一般的に、M&Aには多額の資金が必要であり、自己資金だけでは賄えない場合が多いです。
そのため、金融機関からの融資や、投資家からの資金調達が求められます。しかし、金融機関は中小企業・スタートアップに対して慎重な姿勢を取ることが多く、十分な担保や信用力がないと融資が難しいこともあります。
このような資金調達の問題を解決するためには、事前にしっかりとした事業計画を策定し、M&Aの目的や期待されるシナジー効果を明確に示すことが重要です。
また、資金調達の選択肢を広げるために、クラウドファンディングやエンジェル投資家の活用も検討する価値があります。
効果的なPMI 統合の実施
M&Aの成功には、買収後の統合プロセス、すなわちPMI(Post Merger Integration)が極めて重要です。PMIは、買収した企業と買収された企業の文化や業務プロセスを融合させ、シナジー効果を最大限に引き出すための活動を指します。
情報の非対称性
中小企業・スタートアップのM&Aにおいて、情報の非対称性は大きな課題です。売り手と買い手の間で持っている情報が異なるため、適切な評価や意思決定が難しくなることがあります。
特に、中小企業・スタートアップは大企業に比べて公開情報が少なく、財務状況や業績、将来の成長性についての正確な理解が得られないことが多いです。このため、売り手・買い手間でのコミュニケーションや理解にギャップが生じる可能性があります。
この問題を解決するためには、透明性のある情報提供や信頼関係を構築する努力を前提とするコミュニケーションや交渉スタンスが不可欠です。
経営統合の難しさ
M&Aを通じて企業が統合する際、経営統合はしばしば大きな課題となります。異なる企業文化や経営スタイルの違いは、統合後の組織運営に影響を及ぼすことがあります。
また、経営統合に伴う人事面での課題も無視できません。従業員の不安や抵抗感が生じることがあり、これが業務の停滞を招くこともあります。さらに、経営陣の役割や責任の明確化が不十分な場合、意思決定の遅延や混乱を引き起こす可能性があります。
このような経営統合の難しさを克服するためには、事前の計画とコミュニケーションが不可欠です。統合後のビジョンを明確にし、従業員との対話を重ねることで、円滑な統合を実現することが求められます。
大手M&A仲介会社が絡む詐欺事件などのリスク
ルシアン事件のような、大手M&A仲介会社が関与したとされる詐欺事件やリスクについて、概要と具体的な対策等を以下に整理します。
- 詐欺事件の概要
ルシアン事件の概要
事件内容: 2021年秋ごろから、日本全国で30社近い中小企業をM&Aで傘下に収め、その大半でトラブルを引き起こした投資会社ルシアンホールディングスに対し、大手M&A仲介会社が売主を紹介することで報酬を受け取っていたとされる事件
(参考記事:https://toyokeizai.net/articles/-/774547)
2.被害やトラブルを未然に防ぐための具体的な対策例
(1) 利益相反前提のM&A仲介ではなく、売主専属のFAを活用
売主専属のフィナンシャル・アドバイザー(セルサイドFA)を利用し、利益相反のリスクを避ける。
(2) 買主に対する風評や信用リスクのチェック
売主自身が、セルサイドFAなどの助言や支援を受けながら、買主の風評や信用リスクをチェック。特に、複数の会社の買収実績がある買主の場合、過去の売主へのインタビューを依頼することなどが効果的。
(3) 契約内容の事前精査
手数料体系や契約条件を弁護士及びセルサイドFAと確認し、危険な条項が含まれていないかチェック。
中小企業・スタートアップのM&Aに関するよくあるQ&A
中小企業・スタートアップがM&Aを利用する際には、さまざまな疑問が浮かぶことがあります。これらのポイントを押さえることで、M&Aを効果的に活用できるでしょう。
中小企業・スタートアップでもM&Aは利用できるのか?
中小企業においてもM&Aは十分に利用可能です。実際、多くの中小企業がM&Aを通じて事業承継や成長戦略を実現しています。
特に、後継者不在の問題を抱える企業や、新たな市場に迅速に参入したい企業にとって、M&Aは効果的な手段となります。中小企業・スタートアップがM&Aを活用することで、競争力を高め、持続可能な成長を図ることができるのです。
中小企業・スタートアップがM&Aで得られるメリットは?
中小企業・スタートアップがM&Aを活用することで得られるメリットは多岐にわたります。まず、事業承継問題の解決が挙げられます。後継者が不在の場合でも、M&Aを通じて企業を譲渡することで、事業の継続が可能です。
また、経営資源の獲得により、技術や人材を取り入れることができ、競争力を高めることができます。さらに、規模の経済性を実現することでコスト削減が期待でき、資金調達も円滑に進むため、成長戦略の実現に向けた強力な手段となります。
M&Aを成功させるためのポイントはある?
企業がM&Aを行う理由は多岐にわたりますが、事業承継や新市場への進出、競争力の強化など、具体的な目標を持つことで、適切なターゲット企業の選定や交渉がスムーズに進みます。
目的が明確であればあるほど、M&Aプロセス全体の方向性が定まり、成功の可能性が高まります。
まとめ
中小企業・スタートアップがM&Aを活用することは、事業承継や成長戦略において非常に重要な選択肢となります。少子高齢化や経営環境の変化が進む中で、M&Aは単なる資本の移動にとどまらず、企業の持続可能な成長を支える強力な手段です。
事業承継問題の解決や経営資源の獲得、規模の経済性の実現、資金調達の円滑化といった多くのメリットが存在します。これらを踏まえ、M&Aを成功させるためには明確な目的設定や適切な企業価値評価、綿密なデューデリジェンスが不可欠です。
中小企業・スタートアップがM&Aを通じて新たな可能性を切り拓くためには、これらのポイントをしっかりと押さえ、戦略的に取り組むことが求められます。未来に向けた一歩を踏み出すために、M&Aの活用をぜひ検討してみてください。