概要...
スタートアップM&Aも増税対象〜2027年1月1日以降〜

スタートアップ・ソリッドベンチャー経営株主等のM&A売却時の手取り金額にマイナスな影響
先日話題となった2026年税制改正(ミニマムタックス税制)によると、2027年1月1日からM&Aを含む株式譲渡益への課税が強化される見込みです。
M&Aのプロセスは多くの場合7~9ヶ月以上はかかります。
条件面も事業の相性も良い相手を選ぶためには、セルサイドDD、買い手リスト作成、買い手へのアプローチ、買い手との交渉と基本合意、デューデリジェンス、最終契約の交渉、クロージング手続き、と丁寧に進める必要があります。
また、スタートアップのように経営株主複数名・VCや大企業CVCなどステークホルダーが多い場合は、株主間の意見・利害の調整を丁寧に進めようとすると少なくとも12ヶ月以上は欲しいところです。
この新たな課税が適用される前にM&A売却完了を目指し、かつ、無理に急がずにM&Aの是非含めてしっかり検討しようと逆算すると、遅くとも2026年の1~2月頃から準備を開始することが望ましいです。
日々、事業成長にコミットしているスタートアップ・ソリッドベンチャー起業家・経営株主の皆さまにとって、数年以上、長い場合は10年以上かけて会社を成長させM&A売却する時、手取り金額の多寡は気になるはずです。
なぜなら、多くのスタートアップ・ソリッドベンチャー起業家・経営株主が、M&A売却時の家族等への報い、次なる挑戦、次なる起業や次なる起業家へのエンジェル投資などを視野に入れている場合が多く、その意味で軍資金の多寡と直結するからです。
これまで「富裕層増税」と言えば、株式譲渡益が約10億を超える場合に意識していれば良い話であり、影響範囲も影響金額も限定的でした。今回の改正は、「数億円規模のM&A売却」を目指す多くの起業家もターゲットに含まれるということが留意点です。
起業家の立場からすると、富裕層が数十億円の株式を日々売買して複数回5億円の株式譲渡益を得た場合と、起業家が3~5年かけてようやく1回だけ5億円の株式譲渡益を得た場合と、同じ税率となる見込みというのは違和感がありますが、今回の改正としてはそうなってしまいます。
ただ、前提として、スタートアップやソリッドベンチャーがM&Aすべきタイミングは、税率だけを理由に意思決定すべきものではありませんので、そこは誤解ないようにお願いします。
何が変わるのか?:ミニマムタックス税率「約28%→約36%」
2027年1月1日以降、一定以上の所得がある場合、株式譲渡益に対する税率が現行の約28%から、最大で約35.63%まで引き上げられます。
現在の日本の税制では、株を売って得た利益(譲渡所得)にかかる税金は、金額の多寡にかかわらず一律「20.315%(所得税+復興特別所得税+住民税)」であり、一定以上の所得がある場合にその部分のミニマムタックス税率が約28%です。
大企業の経営層になって年俸が大きくても所得税がこの税率よりも大きくなる(例:40-50%以上)ことなどを勘案すると、起業家がリスクを取って挑戦した結果としての経済的報酬が大きくなることは、魅力の一つでした。
しかし、今回の改正(金融所得課税の強化)が適用されると、基準を超える部分の所得に対して以下の税率が適用される可能性があります。
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現行(2025年・2026年): 約 27.46%
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内訳 (所得税 + 住民税等含む概算 = 22.462%+5%)
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2027年以降: 約 35.63%
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内訳 (所得税 + 住民税等含む概算 = 30.63%+5%)
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これは、法人税の実効税率をも上回る水準です。「会社を成長させて株を売る」よりも「法人税を払う」方が税率が低いという、逆転現象が起きかねない事態です。株式売却・事業譲渡のストラクチャー選定にも影響しそうです。
対象者の拡大:「10億円の壁」から「3.5億円の壁」へ
「自分はユニコーン(評価額1,000億円)を目指しているわけではないから関係ない」 そう思った方、要注意です。
これまでの増税議論では「所得10億円超(大半が株式譲渡益の場合の、いわゆる10億円の壁)」が主なターゲットとされてきました。しかし、2026年度税制改正の議論で浮上しているのは、「所得3.5億円弱」 というラインです。
もしあなたが、創業からの努力が実り、M&Aで 数億円(3.5億円以上) のキャピタルゲインを得ようとしているなら、この増税の影響を受けることになります。
例として、100%株式価値10億円・30億円のスタートアップM&A売却(起業家の保有株式比率50%、起業家の取得株価1円)の場合、それぞれ起業家の税金が以下のような計算になる見通しです。話をシンプルにするために、起業家のその他の所得は勘案しない概算です。
【10億円の場合(=起業家の株式譲渡益約5億円の場合)】
現行:約5億円 x 約20% = 約100百万円(約1億円)が税金
(ミニマムタックス税制が適用されず、約20.31%(所得税 + 住民税等含む概算 = 15.315%+5%)のみ)
2027年1月1日以降:約123百万円が税金(現行よりも約23百万円手取りが減る)
所得約3.5億円以下の部分 x 約20% = 約70百万円が税金
所得3.5億円超の部分である約1.5億円 x 約35.63% = 約53百万円が税金
約70百万円 + 約53百万円 = 約123百万円
【30億円の場合(=起業家の株式譲渡益約15億円の場合)】
現行:340百万円が税金
所得10億円以下の部分 x 約20% = 約200百万円が税金
所得10億円超の部分である約5億円 x 約28% = 約140百万円が税金
約200百万円+約140百万円 = 340百万円
2027年1月1日以降:約480百万円が税金(現行よりも約1.4億円手取りが減る)
所得約3.5億円以下の部分 x 約20% = 約70百万円が税金
所得3.5億円超の部分である約11.5億円 x 約35.63% = 約410百万円が税金
約70百万円 + 約410百万円 = 約480百万円
税金が気にならないくらい大きく(1,000億円とか1兆円とか)のM&A売却をすれば良い、という起業家も存在しますが、皆がそうなわけではありません。
以上です。
本記事は、ファイナンス・プロデュースのメンバーが執筆し、スタートアップ税務を中心にご活躍されている公認会計士・税理士である畠山謙人氏に監修頂きました。
株式会社ファイナンス・プロデュース
「社会を変える事業を創るためのファイナンスをプロデュースする。」というミッションのもと、ドリームインキュベータから新規事業カーブアウト・MBO(マネジメント・バイアウト)を実行して誕生した、スタートアップ起業家専門の投資銀行事業を行う会社です。
特に、日本のスタートアップ業界のボトルネックとも言える、" スタートアップM&Aの規模化と質の向上 "を中核テーマとして、主にシリーズB以降等のグロース・ステージのスタートアップ起業家側のセルサイドFA(Financial Adviser)としてのM&A助言や、大型IPOに向けた資本政策・資金調達の助言事業を展開しております。
