【事例】洋菓子ブランドCOMMERPARISのM&A売却を助言(23年9月公表)
田園調布のプチカヌレ専門店「COMME PARIS」(以下、コムパリ)は、一口サイズの手作りカヌレを販売しています。デパートの催事場でも見かけるようになった可愛らしいカヌレを知っている人も少なくないのではないでしょうか。
ブランドを運営する株式会社COMMEPARISは2023年春に、著名なプライベート・エクイティ・ファンド(以下、PE)の投資先である、チルドスイーツ製造販売のロピア社へ、事業売却を実施。その背景はなんだったのか、そして、エージェントを選んだポイントはどこだったのか。会社を経営していた平山・橋本夫妻と、顧問であり共同経営者の小田垣氏であったお話を伺いました。
(聞き手:ファイナンス・プロデュース/野中)
3人の子育てとの両立を考え事業売却を決心
▶コムパリ社の事業と、売却までの経緯は?
(コムパリ・平山)オーナー兼経営者として夫婦及び先輩経営者の合計3人でコムパリを経営していた平山、橋本、小田垣です。経営全般は平山が先輩経営者である小田垣のアドバイスを受けながら担当し、感性やクリエイティビティが重要となるブランディングや現場のカルチャーづくりは橋本が担当していました。
(コムパリ・橋本)コムパリは2011年に別のオーナーパティシエによって設立されたフランス洋菓子店でした。 顧問の小田垣より私達夫婦に一緒にやらないか?と誘ってもらい、M&Aで経営権を取得して再スタートしたのが2018年のことです。
私自身が料理やお菓子が好きだったことはプラスでしたし、社長秘書として社長業に触れていた期間も長くあったものの、経営には関与したことがなく戸惑うことの連続でした。近年はギフト向けに高価格帯製品による催事出店を本格的に進めており、三越グループ、大丸松坂屋グループ、高島屋グループ、そごう西武グループをはじめとする大手百貨店等との取引実績も豊富です。2023年の全国百貨店でのホワイトデーの催事では過去最高の売上をあげ、全国各地でたくさんのお客様に行列を作っていただくほどのブランドに育ちました。
弊社は事業成長の真っ最中。一方、事業が急成長する中、このまま自分達を中心に事業を成長させたい、という情熱と、会社経営として経営者個人に依存し過ぎずに組織力を強化していく次のステージへと進化させる必要性がある、という冷静さが交錯しながら、焦燥感が募っていました。
同時に、プライベートにおいても3人の子育てとの両立の中で、幼い子供とも今しかできないことがあると考え、もっと心のゆとりや時間を確保したいとの思いが強まっていました。
こうした思いについての葛藤の末、会社の成長にとっても、家族の成長にとっても必要な決断として、自分達が育てた大切な会社の今後の成長を、他の会社に託すことを決心しました。
▶M&Aにおいては客観的な意見を求めてアドバイザーに相談することが多いですが、御社ではどのように依頼先を決められたのでしょうか?
(コムパリ・平山)ヒアリング対象は80社超あったのですが、最終的には、相性が良く実力のありそうな3社へ絞り込みました。M&A仲介業者の中には、過度な広告宣伝や自宅にダイレクトメールをしてくる先も少なくないのですが、そういった先は省き、ニーズマッチする30社、その内条件が合う商談先10社、そこから、M&A仲介業者3社と、売り手からしか手数料を受け取らないFA1社の4社から相見積もりを取得、最後に1社に決定、というフローで選考を進めました。
最終的に依頼したのは、広告宣伝等では一切見かけなかった株式会社ファイナンス・プロデュース(以下、FIP)。同社は「売主の価値最大化」と「成長のためのM&A」を売主専門のファイナンシャル・アドバイザー(以下、FA)として助言する会社です。見積もりを依頼した4社のうちの1社になります。
実は検討初期段階では、M&A仲介業者とFAそれぞれの、事業モデルやメリット・デメリットについて明確に理解をしていたわけではなかったのですが、商談が進むにつれ解像度が上がっていきました。
▶M&A仲介業者とFAの間にはどのような違いがあるのか、知りたい読者の方もいらっしゃいそうですね。
(コムパリ・平山)小田垣と共に自分で調べたり知人に聞いたりしてわかったことは下記の違いでした。まず、M&A仲介業者についてです。どの業者も組織力が強かったり優秀な個人の集まりである一方、経済産業省が公表している「中小M&Aガイドライン」では、売主と買主両方から手数料を取るM&A仲介業務において「買主企業の利益を優先する構造等の利益相反の問題」が指摘されています。具体的には、「買主は譲渡対価が低い方が望ましいという状況で、M&A仲介業者はリピーターになりやすい買主の利益を優先するように動く構造的な問題がある」ということです。
一方、売主専門のFAは、売主のみからの売却金額に応じた手数料となっています。売主の目線から言えば、「自分たちが育てた大切な会社・事業の価値を最大化したい」という気持ちと「経済的なインセンティブ」と、売主専門のFAの手数料の最大化という「経済的インセンティブ」が一致します。
上記を考慮し、売主としては売主専門のFAを選ぶ方が合理的だと考えました。
売主専門のFAと叶えた「成長のためのM&A」
▶M&Aについて、どのようなスケジュールで進めましたか?
(コムパリ・平山)2022年GW明けに売却を検討し始め、夏過ぎから秋頃にかけてM&A仲介会社等へ相談しました。製菓は、クリスマスやバレンタインといった催事が最大の繁忙期となるため、買主様には2023年2月のバレンタインをご一緒してみていただきたいという観点もあり、2023年12月末までに売却完了したい、というロードマップで動いていました。
関心を示す買主候補は複数出てきたものの、オーナー経営者の一存で「前向き」という話が多くて進捗が見えづらく、また、売却後に組織的な成長を推進して頂けるのか、等、様々な不安を感じ始めていました。
そんな中、2022年の12月頃にFIPを紹介いただき、相談を開始しました。
▶売主専門のFAを選んでM&Aを成約されてみていかがでしたか?
(コムパリ・平山)結果として、売却価格含めた最終的な成約条件と、そこに至るまでのプロセスは納得がいくものでした。
また、売却の目的の一つとして重視していた、事業を更に成長させる買主、という観点でも、売却価格交渉の前段階での買主のリストアップ・アプローチにおいて、FIPは買主の事業戦略と投資方針、意思決定のキーマンについて独自のネットワークで情報収集・分析し、買主を効率的に見定める支援もして頂きました。
▶FIPは今回の相談を受け、どう感じましたか?
(FIP・松井)弊社では、コムパリ様のブランドに込められた思いや、成長している事業に魅力を感じ、また、売却の目的にも共感しました。
実は、ご相談いただいた当初、M&A仲介会社80社超へ相談してきたと伺い、案件をお引き受けすることを躊躇しました。背景として、M&Aにおいては、業界内でM&Aに関する情報がM&A仲介会社間やそれらの会社が懇意にする買主の間で出回り過ぎている事例では、機密情報が漏れやすくなったり買主から「売れ残り案件」と勘違いされるリスクなどがあるためです。
ただ、実際に詳しく話を聞いていくと、80社超へ情報を渡していらっしゃるのではなく、3社ほどに絞って詳細な相談されていたということで安心し、お引き受けさせて頂くことにしました。早速チームを組成し、弊社の竹内をプロジェクト・リーダー、入江をプロジェクト・メンバーとしました。
(FIP・入江)契約開始となってからは即座にチームで動き、売主様本位の視点で、複数の買主候補様との交渉をご支援し、2023年1月末にはM&Aにおける基本的な買収条件を示す意向表明書をご提示頂き、4月末までにM&A売却手続きを完了しました。
▶FIPが掲げる「成長のためのM&A」という観点からはいかがでしたか?
(FIP・竹内)FIPから見てもコムパリのニーズと、ロピアの戦略的なニーズはフィットしていました。
ロピアが展開するチルドスイーツの市場は約2千億円規模で安定しているものの、次の成長を図るべく、ロピアは自社で消費者に直接販売できるチャネルを有する新規事業を探していました。
ロピアの冷凍技術を利用したコムパリのeコマース展開や、コムパリの百貨店での催事での実績を活かした出店などが考えられ、コムパリの買収はロピアが新規事業へ参入するM&Aとして戦略的にフィットしました。
FIPとして、スタートアップをはじめ業歴があまり長くない企業の売主の顧客が多いことも影響し、新規事業へ参入するためのM&Aという文脈は、難易度も相対的に上がることも多いですが、売主・買主双方のニーズと希望に合致しやすく、最も支援に力を入れています。
また、本件のように売主が情報リテラシーが高く、「成長のためのM&A」という観点で合理的に納得できる条件を合理的に追求するスタンスですと、売主からしか手数料を受け取らないFAを売主が選ぶ合理性、進め方や弊社の役割についても、ご理解頂きやすいと考えています。
市場での実需額で着地するために必要なのは「蓋然性」
▶コムパリ様からは「初めからFIPにお願いしておけばよかった」といお言葉をいただいたようですが、どういった点でお役に立ったと感じていただけたのか、改めてお伺いしてもよろしいでしょうか?
(コムパリ・平山)FIPが掲げている通り「売主の価値最大化」と「成長のためのM&A」を売主専門のFAとして助言して頂けた、という点です。
具体的には、M&A仲介業者から当初伝えられていた売却金額等の期待値は、売主専門のFAであるFIPと一緒に交渉した結果、当初の約1.5倍の売却金額で複数の買主候補が競る形となったこと。
背景としては、最後の1~2ヶ月(2023年2~3月)にバレンタインデーとホワイトデーがあり、そこで営業利益を大きく想定よりも伸ばせました。売主に事前提示していた営業利益目標の複数シナリオ(高・中・低))に対して、結果は「高」の目標を上回る上方修正できたことの影響が大きかったと考えております。
PEファンドやその投資先企業のような合理的な買い手の買収金額の算定においては、売上高が一時的に伸びたと見られてしまうと、それだけを理由に売却金額を引き上げるのは容易ではありませんが、経験豊富なFIPに買い手を説得するロジックの積み上げを中心に支援頂きました。
M&Aにあたっては、見に来てくれれば何故売れているかわかる、といった優秀な経営者が言語化しなくても得られる感覚的な経営評価要素を、定量的に数値と理屈で可視化しますが、FIPには、これに加え、買い手側が高額な判断を下す材料になるDCF法を用いた数値などの「蓋然性」をアドバイス頂きました。
今回は時間的猶予もなく、当社に資料を用意する余裕もなかったため、必要な項目は網羅はできても仕上げる時間がない状況でした。これを補強して仕上げていただけたのも助かりました。
▶やはり価格面の影響は大きいですよね?
(コムパリ・平山)金額については、買い切り型モデルと、一定の金額に業績比例型追加報酬を加えたアーンアウトモデルの2種類を提示させていただきました。2022年度から2023年度にかけて売上高は大きく成長しました。2022年度に行った投資で利益率が上がり、営業利益も大きく成長しました。今後の売上については催事場での売上予想から予測しました。
創業当初は「フランスの焼き菓子店」であったところ、「田園調布のプチカヌレ専門店」とブランディングを切り替えたことも奏功し、テレビや女性誌を中心に多く取り上げられ、今後の右肩成長はイメージしていただきやすかったことから提示金額の妥当性や経営の安定性については、買主の方々にもご理解いただけていたかと考えます。
一方、売却価格については、「コムパリの経営状況であればこの価格」という状態であったのに対し、製菓市場全体における競争環境から引き直した価値を提示頂きました。これのおかげで視野が広がりましたし、価格引上げの妥当性が出たと感じています。
▶実は他の企業からも同価格条件が出ていたとのことですが、価格が並んだ時の決め手としてはどういったものがありますでしょうか?
(コムパリ・平山)やはり先に挙げた、事業への理解があった点が挙げられます。特にM&Aにおいては、同事業におけるロールアップが加速していくと考えられる中、事業理解・知見の深さはやはり求められていくと思います。
加えて、一般的なM&A仲介業者の手数料は両手(買主・売主の両方から手数料を受領)のため、買い手がその分金額を控える必要が出て来ますが、FIPは売り手からの片手(売主のみからの手数料を受領)なので、上を攻めることが出来たのではと。売主からしても今後の更なる事業成長に自信があるので、相応の価値がついたほうが良いです。この点はありがたかったです。
▶着地点として価格の妥当性が出てよかったです。
(コムパリ・平山)とはいえ、FIPによると、実務及びファイナンス理論のいずれにおいても合理的に正当化しうる経済条件にて、高値で売却した、というよりは、実現可能な価格よりも安値で売却せずに済んだ、というのが売主専門のFAとしての見解、ということでした。
感謝している売主の立場としては、そんなにお堅いこと言わずにもっと積極的にアピールすれば良いのに、と思ってしまうコメントです(笑)
また、売却の目的の一つとして重視していた、事業を更に成長させる買主、という観点でも、売主専門のFAとして、買主の事業戦略にフィットする買主を見定める支援もして頂きました。単なるマッチングではなく、あくまで事業成長のための資本政策を助言されており、資本政策の選択肢の一つとしてM&Aを助言されている、ということが、実感としてよくわかりました。
ただ、最初に聞いた時、小難しいこと言う人たちだけど理論ばっかりで、本当に結果出してくれんのかな?、と思ってしまったことも申し添えておきます(笑)
事業を次の成長ステージに進めるM&Aを助言するFIP
スタートアップM&A等の資本政策の助言業務を中心とし、スタートアップ・起業家向けに「成長のためのグロースM&A」を支援している弊社ですが、今回の案件を経て、改めてスタートアップだけではない、成長を目指す中小企業にとっての「成長のためのグロースM&A」において、FAへのニーズがあることをあらためて実感しました。今後とも貢献できることがあれば、微力ながらお力になれれば幸いです。
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